「リニューアルも料理も、すべてはリピーターのために」 伊豆・稲取「浜の湯」の鈴木社長に聞く、お客様との向き合い方 ~前編~

―From PRADIME―
観光・旅行事業者の皆様に向けた情報を発信する本サイト「PRADIME」。これまで数々のプロモーション情報をご紹介してきました。ウイルスの感染拡大という予想だにしない事態を受け、旅行業界は未曽有の危機に直面しています。これまでと同様のやり方・考え方では乗り越えられない状況に対し、我々に何ができるのかを考える日々です。そこで「PRADIME」では、旅行業界で活躍する人々に経営の考え方や想い、ビジョンを聴く新シリーズ『From PRADIME』をはじめることにしました。

第1回は、伊豆稲取にある旅館「浜の湯」の代表取締役社長・鈴木良成さん。「浜の湯」はリピーター宿泊で年間80%以上稼働しており、料理や接客で高い評価を受けている旅館です。鈴木社長は大学卒業後、1990年に「浜の湯」に戻り経営に携わるようになりました。もとは別の道に進むことを考えていたという鈴木社長。それがなぜ、どのようにして現在の「浜の湯」を生み出したのでしょうか。

将来の夢は「立派なサラリーマン」……大学卒業後に気付いた接客の魅力

―もとは旅館を継ぐことを考えていなかったそうですね。それにも関わらずこの規模まで育て上げた背景や想いをお聞かせいただけますか?

私は、旅館が大嫌いだったんですよ。小さい頃は(両親が忙しいため)夕飯もなくて、100円玉をもらってパンを買いに行くなんてこともしょっちゅう。それで近所のおばちゃんが不憫に思って、「うちで夕飯食べてけ」ってごちそうになることも何度もありました。小学校のときこういう経験をしてたんで「こんな家庭とんでもねぇ、絶対に継いでたまるもんか」って思ってたんですよ。作文で将来の夢を書くときも、まわりは野球選手とか夢らしい夢を書いてるのに「立派なサラリーマンになる」って書いてさ。臨時の家庭訪問になったこともあります。

うちはちっぽけな宿だったんで、親父も「将来性のある宿じゃないから、好きなようにやれ」と。大学も旅館とはかけ離れた学部に入りました。でも就職活動中、年を取った祖父がわざわざ東京まで出てきたんですよ。長男が継がないなんてありえない、と。親父も言えなかったんだろうね、俺が全然違う道に行こうとしてるということを。なんだか可哀そうになってしまって、4~5年くらいだけ戻って手伝うことにしたんです。

当時は汚い旅館だったから、リピーターがいないと商売が成り立たないわけですよ。お客さんとのやりとりが独特で、距離感が近いんですね。それでハマっちゃって、「これを一生の仕事にしようかな」なんて本気で思いはじめてね。いつも考えてたのは「今日泊まるお客さんに、なにがなんでもリピートしてもらう」ってこと。広告宣伝なんて絶対にしない。なぜなら、あんな汚い部屋を写真に撮っても良く写らないから。無駄な抵抗はやめようと思って、宣伝費は年間で1円も使わなかった。その代わり、料理原価にかけたんですよ。普通の船盛は、野菜を飾ってキレイに見せるわけ。でもうちはそんな飾りは載っけないんですよ。はみ出すくらい、ぎゅうぎゅう詰めに刺身を載せる。夕食だけじゃなく朝食までそれだから、お客さんは「もうしばらく刺身は食べたくない」って言うほど。それくらいのボリュームで満足度を上げて、リピートに繋げていたんです。


―私も以前宿泊したことがありますが、料理のボリュームにびっくりしました。


広告宣伝費を使わないから、いくらでも料理に使えたんですよ。だから、他の旅館は絶対マネできない。でも料理以外は最悪ですよ。歯磨きとかタオルも最低レベルだから、「自分で持ってきて」と言ってましたよ。その代わり料理は任せてくれって。そしたら、お客さんがお客さんを呼んでくれたんです。あんな汚い旅館が、毎日満館なんですよ。それがあったから、平成7年に22億かけてリニューアルできたんです。


―22億。だいぶ変わりそうですね。


生まれ変わりましたよ。そうすると、手のひらを返したように旅行代理店が「協定結んでくれ」って言いに来る。今まで汚い旅館を見てバカにしていたくせにね。

すべて「リピーターのため」。次世代に宿を受け継ぐために

-平成7年以降も、定期的にリニューアルをしていますよね。常に新しいことを考えている印象があります。なぜリニューアルを継続しているんでしょうか?

リピーターのためです。新規客の獲得じゃなく、とにかくリピーターのためなんです。旅館に泊まるお客さんは、宿に根ざすんですよ。その宿がかけがえのない宿になって、一生涯通い続けてくれる。うちはそういう人がたくさんいたからこそ続けられたんで、お客さんに返さなきゃいけない。返す周期は5~6年に1度。一生この宿に通おうと思ってるお客さんに対して、新鮮な感動を見せてあげたいんです。

世界に何店舗も展開するような大手ホテルは、運営は運営、所有は所有で分けてますよね。それぞれのプロフェッショナルがその道を究めてグローバル化するというのは理にかなっていますけど、旅館の考え方とは違います。旅館は、所有=運営ですからね。土地や建物をオーナーが所有し経営するからこそ、一生涯守り抜こうと思うし建物に魂がこもるんですよ。だから旅館って、何百年も続くんです。

所有者と経営者が同じで代々受け継いできたからこそ、自分の代で絶やしちゃいけないと思うんです。そうじゃないと100年どころか50年ももたずに入れ替わる業界になってしまう。そしたら旅館が旅館じゃなくなってしまいますよね。この時代を守り抜いて次に明け渡していくために、設備投資は必要です。一生涯お客様を守り抜くために、リピーターが望んでいるものを設備投資で作るだけ。アンケートや口コミをちゃんと見ていれば、なにに不満を抱いているのかすぐ分かります。そこを設備投資で劇的に変えてあげれば、ダメだったところが1番満足できるところに変わるんです。

―自分の意見が反映されたら、お客様も感動しますよね。

お客様の施設に対する思い入れも強くなるし、次の来館にも繋がります。だから、設備投資は「リピーターのため」ということしか考えません。

消費者と向き合い、満足度の高い料理を提供

-設備投資を重ねながらも料理の量や質はどんどん向上していますよね。リニューアル後は広告宣伝などにも予算を使っていると思います。その中でも料理にこだわり続けられるのは、なぜなんでしょうか?

直比率が高いからですね。今では広告宣伝やパンフレット制作もしていますよ。それでも他の旅館さんよりははるかに料理原価をかけられています。現在、年間の8割以上の客室稼働が直予約で安定しています。でもこんなのは5年以内にできることではなくて、10年、15年のスパンが無いと変われません。それをやってきたからこそ今があって、料理にもお金をかけられるんですよ。

-旅行会社に依存しすぎると、なかなか実現できないことですよね。

旅行会社からの予約に依存している旅館って、料理も言いなりなんですよ。旅行会社が売りやすいように注文付けてくるわけですから、そりゃあダメになりますよね。たとえば、「伊豆で伊勢海老が食べられる15,000円の宿」っていう企画とかね。伊勢海老付けて15,000円のプランを作ったら、残りの原価なんてたかが知れてる。ろくな料理作れないですよ。つまりこの企画で泊まったお客さんは満足しないからリピートしない。また1から集客しなきゃならないから、旅行会社に頼ることになる。悪循環なんですよ。旅行会社の顔色うかがいながら部屋や料理を作っていたから旅館業はだめになったんです。消費者の方を向いて、施設や料理を作ってあげたら良かったのにね。

<後編に続く>


伊豆稲取温泉・食べるお宿「浜の湯」
TEL:0557-95-2151
住所:静岡県賀茂郡東伊豆町稲取1017
http://www.izu-hamanoyu.co.jp/

以下資料も合わせてダウンロードできます。

認知促進・ブランディング強化のために
重要なポイント

ダウンロード(無料)

関連するお役立ちコラム